すだまの足跡

技術と社会を考えたい理系大学院生が残したいつかの足跡。

マートン・ノルム

アメリカの社会学ロバート・マートンは1942年、科学者に求められる精神的態度を以下の4つにまとめた。これは現在マートン・ノルムと呼ばれるものである。

 

①「公有性(Communality)」知識を私的に所有してはならない

②「普遍性(Universality)」科学理論の心理性は科学者の人種、性別、国籍、宗教などによらない

③「無私性(Disinterestedness)」個人的な利害に囚われて不正を行ってはならない

④「組織的懐疑主義(Organized Skepticism)」宗教的・政治的ドグマに基づいて判断を下してはならない

 

これらは頭文字をとって「CUDOS」とも呼ばれ、当時の科学研究の様子を物語っている。ところが第二次世界大戦後の科学は一般的に、「アカデミズム科学」から「産業化科学」へと大きく変貌を遂げることとなる。大学の研究室という象牙の塔にこもり、自らの好奇心に基づいて研究する「アカデミズム科学」は現在ももちろん行われているものの、しかし同時に、科学が軍事や産業と結びつき、政府や企業から巨額の資金援助を受けてプロジェクトを推進するような「産業化科学」の色合いが多かれ少なかれ色濃くなってきてきたのは明らかだ。また、最近は大学が学内の研究成果によって知的財産を取得できるようになってきたため、より産業との関わりが深くなったと言える。そしてこれに伴い、科学者像も徐々に変容し始める。J. ザイマンはこの新たな科学者像をCUDOSに代わってPLACEと表現した。

 

①「所有的(Proprietary)」知的所有権の要求

②「局所的(Local)」当面の与えられた課題の解決を目指す

③「権威主義的(Authoritarian)」社会的権威としてふるまう

④「請負い的(Commissioned)」政府や企業から科学研究を請負う

⑤「専門的仕事(Expert work)」細分化された専門分野の仕事を行う

 

もちろんこの表現はやや偏った風刺的な視点で科学者を眺めている印象も受けたりするが、しかし現代の科学者の在り方の特徴を鋭く浮彫りにしていると思う。特に①の知的所有権の要求などは、アカデミック・キャピタリズムと呼ばれることもある最近の(特にアメリカにおける)大学の傾向と密接に結びついている。大学が資本主義におけるプレーヤーの一員として積極的に利益を得ようとするアカデミック・キャピタリズムに関しては、いずれきちんとまとめてみたい。