すだまの足跡

技術と社会を考えたい理系大学院生が残したいつかの足跡。

犬と飼い主

飼い犬に手を噛まれれば痛い。小型犬だって本気の臨戦態勢に入れば、大の大人に怪我を負わせることくらいできる。怒って歯をむき出したりすると、結構怖い。しかし、そんな時に犬に文句を言っても仕方がない。飼い犬との健全な主従関係を築き上げられなかった飼い主の責任である。

 

これが犬でなくて、SONYのアイボだったとすると話がややこしくなってくる。当然SONYが現に販売しているアイボには、そんな恐ろしい機能はついていない。しかし、もしこういった愛玩ロボットが写実主義に走ると仮定すれば、その外見や動作は生身の犬の姿に近づいていくだろう。となれば、物を噛むしぐさの再現は犬を犬たらしめるために不可欠だ。すると間違って人間を噛むこともあるかもしれない。

 

アイボに噛まれた主人は自身を責めるだろうか。たぶん彼は自分自身の落ち度を責める前に、SONYに苦情を入れるだろう。こんな危険なロボットを販売するとは何事か。見ろ、手から出血しているんだぞ。犬と飼い主の間で閉じていた共生関係に、第三者的責任者が侵入する。これらのネットワーク内で生じた問題の責任所在は、この第三者に吸収されていく。このことは、犬と飼い主の関係を変容させずにいられるだろうか。