すだまの足跡

技術と社会を考えたい理系大学院生が残したいつかの足跡。

「博士」活かせぬ日本企業 雑感

r.nikkei.com タイトルの通り「「博士」活かせぬ日本企業」という記事が話題になっていたので、日本の博士問題に関する自分なりの意見を書き記してみます。 記事によれば、日本における博士号取得者はここ10年で16%減少したとのことです。博士号を取得した後…

デジタル写像で取り残されるもの

CDを買って音楽を聴く人が今どれくらい残っているのか分かりませんし、私も最近はお金が無くてストリーミングサービスで聴いてしまいますが(CDはやっぱり高い)、そういったデジタルなプラットフォームに搭載しきれない体験があることは確かです。CDの表現…

砂漠に住むつもりかい?

thebridge.jp 2018年に創業したパリのInterstellar Labというスタートアップが、アメリカのモハべ砂漠にSFの世界を実現するようです。人間が火星などで生きる方法を模索するための実験場です。イメージ画像がかっこいい。 完成すれば100人が暮らせるようにな…

犬と飼い主

飼い犬に手を噛まれれば痛い。小型犬だって本気の臨戦態勢に入れば、大の大人に怪我を負わせることくらいできる。怒って歯をむき出したりすると、結構怖い。しかし、そんな時に犬に文句を言っても仕方がない。飼い犬との健全な主従関係を築き上げられなかっ…

拒絶に慣れる

Yコンビネータ(YC)といえば今やアメリカで大成功するアクセラレータとして比類なき知名度を誇っていますが、以前『Yコンビネーター シリコンバレー最強のスタートアップ養成スクール』を読んでいて、記憶に残ったエピソードが、YCに参加する創業者の一人が…

量子コンピュータ開発 雑感

Googleの量子超越性実証で一気に沸き立った量子コンピュータ。昨日はなんとAmazonも独自のサービスを発表しました。盛り上がってますね、量子コンピュータ。ところで、その開発は今世界的にどのような状況にあるんでしょうか。気になったので少し調べてみま…

マートン・ノルム

アメリカの社会学者ロバート・マートンは1942年、科学者に求められる精神的態度を以下の4つにまとめた。これは現在マートン・ノルムと呼ばれるものである。 ①「公有性(Communality)」知識を私的に所有してはならない ②「普遍性(Universality)」科学理論…

シミュレーション仮説、音楽と出会う

Trying to understand the system of LifeTrying to understand myselfI created the world to be an image of myself, of my mind Pain of Salvation「Be」冒頭より ゲームクリエイターであるウィル・ライトが制作した「シムシティ」は1989年に発売されまし…

データイズムと科学との距離

昨日の投稿で、中世ヨーロッパにおける機械的自然観の誕生を起点とし、ユヴァル・ノア・ハラリのデータイズム思想まで話を広げてみました。しかし、物理学に深いルーツを持つ機械的自然観とデータイズムを同じ土俵で比較するのは、深刻な誤りとなる可能性が…

コンピュータとしての人間、そしてDataism

コペルニクスに始まり、ニュートンによって完成される中世ヨーロッパの科学革命を経て、人間の自然観はアリストテレス以来の有機体的自然観から、機械的自然観へと大きく変容しました。機械的自然観の立場に立てば、あらゆる物質は古典力学的が記述する冷徹…

Apple Musicのラインナップ問題

私は基本的にApple Musicユーザーなのですが、最近どうも聴きたいアルバムが入っていなくて落胆することが多いです。例えば、自分のお気に入りのメタルバンド in Flamesで検索すると、中期の名作である「Sounds of a Playground Fading」だけが何故か無い。…

機械学習とサイエンス

最近『ディープラーニングと物理学』とか、『物理学者、機械学習を使う』など、自然科学(特に物理学)とディープラーニングを関連付ける本を目にするようになりました。また、機械学習による創薬研究や材料開発などは、おそらく元から相性がよく、様々な企…

物理主義者の地平線

物理の大部分と化学の全体に関する数学的理論に必要な基本的物理法則は、このように完全にわかってしまったが、唯一の問題はこれらの法則を正確に適用しようとすると、非常に複雑な方程式となり、解く望みの無いものになってしまうことである。 ー P. A. M. …

最後の大魔術師

最近読んだ本の中で、古典力学の始祖ニュートンが、かの大予言者ノストラダムスと一緒に紹介されていたので、気になって少し調べてみました。どうやらニュートンも一種の終末予測を物していたようです。彼の著した無名の文章によると、ニュートンは世界は206…

基礎研究の価値

「基礎研究が大事」だという事は、基礎科学に携わる研究者にとってはことさら証明する必要のない真実であるかのように語られます。例えば日本のノーベル賞受賞者は、口を揃えて基礎研究の重要性を強調します。2016年にノーベル医学生理学賞を受賞した大隈栄…

天才の描くSF

世の中には天才と呼ばれる人間が無数に存在します。テッド・チャンもその一人。アメリカの短編SF作家です。映画「メッセージ」の原作者だと言えば、ピンとくる人もいるでしょうか。 実は彼の作品を収めた短編集は、たった一冊しか刊行されていません。日本で…

Facebookはデジタル通貨の夢を見るか?

今年の6月に発表されて以来、世界的な議論の的となっているFacebookのデジタル通貨、Libra(リブラ)。その特徴は何か、そして発表から半年近く経とうとしている現在どのような懸念が存在するのか、自らの勉強がてら簡単にまとめてみます。 デジタル通貨Lib…

Comfort Zoneから抜ける(ただし命綱を手に)

"COMFORT ZONE ENDS HERE." 今年の2月に開催されたスタートアップの祭典、Slush Tokyoの入り口の写真です。「安全地帯はここで終わりだ(=チャレンジはここから始まる)」という意味が込められていると言います。Slushでは、全てのセッションが英語で行わ…

ラッダイト運動と現代

画像: wikipediaより 昨日の記事で、テクノロジーが人間を置き換える過程についてやや悲観的な妄想を広げてみました。一言でいうと、「人間が単純作業を機械に任せているのではなく、機械が人間をより高度な作業へと追いやっているのだと考えたらどうか」と…

マシンはヒトに”創造的な仕事”を残すのか?

ディープラーニングなどの誕生により、マシンが出来る仕事は飛躍的にその数を増してきました。「このままいくと、マシンが人間を完全に置き換えるのではないか?」。そう言った疑問に対して、「人間は逆に単純作業から解放される事で、創造的な仕事に集中で…

科学的懐疑主義が機能するとき、しないとき

科学教育は、物事を自分で考える力を養うといいます。悪く言えば、懐疑的になる。多くの科学者は人の主張を読んだり聞いたりする際、まずは疑ってかかり、どこかに誤った点が無いかを精査します。そういった同業者の厳しい批判の目にさらされて生き残った研…

iPS事業、「非常に厳しい」ってよ

何だか聞き慣れた感もありますが、iPSストック事業への予算が今後減額されるとのニュースが。山中先生が必死になって集めた寄付金を、逆にあてにされる形となったようです。iPSのストック事業にはいろいろと批判もあるようですが、ノーベル賞まで受賞した研…

You make what you see

陸上の長距離を走る選手の日常は、ひたすら走り込みに費やされます。私も陸上部に所属していた中学や高校時代、そういった生活を送っていました。走ってばかりで何が楽しいのか、と怪訝な顔をされたりしますが、ところがどっこい、ただただ走り続ける中でも…

科普と科幻 中国SFの今

写真:「SF業界が急成長、7000億円産業に 最新の「中国SF産業リポート」発表」CNSより 「好事家よ、SFを読め!」でSF布教を始めたついでに、最近日本でも突如盛り上がっている中国SFについて書きましょう。中国においては、もともとSFの中でも「科学普及」と…

1+1≠2だから面白い シナジー効果と光の干渉

昨日の記事でLINEとヤフーの経営統合について書きました。企業の統合や買収が起こる際、お互いの良さや強みを上手く活かし合うことに成功した場合、単純な和以上の結果をもたらす事があります。ビジネス畑の人はこれをシナジー効果と呼びますね。逆に折りが…

ヤフーとLINEが経営統合 日本から巨大プラットフォーマーが産声をあげる?

ヤフーとLINEが経営統合する方針に向けた最終調整に入ったと報道がありました。大きなニュースですね。 www.nikkei.com LINEとヤフーのサービス利用者を合算すると、利用者数は1億人の大台に乗り、国内IT市場に突如巨大なプレイヤーが誕生することになりま…

好事家よ、SFを読め!

たまに何かの理由でエスカレータが動かなくなって、ただのメカニカルな階段と化していることってありますよね。あれって、いくら頭で動いていないんだと意識しても、乗り移る瞬間に体が勝手に重心を移動させて、前につんのめりそうになりませんか。普段は全…

The World Is Open: オープンイノベーションって何ぞや

最近ビジネス系の本を電車内でよく読むので、だんだん「新たな価値の創造!」とか「イノベーションの創出!」みたいな言葉にも慣れてきました。今回は昨今流行りのオープンイノベーションについて書き留めたいと思います。 オープンイノベーションって言葉を…

スタートアップは悪者か?

以前の記事で、シリコンバレーに代表され、その他各地で盛り上がりを見せるテクノロジー企業の台頭と、その貧富の格差への関係に関して少しだけ触れました。Y Combinatorの創業者として有名なPaul Grahamが、類似の話題に関して(割と物議を醸したらしい)エ…

アルバムに耳を傾ける

ヒットを飛ばすようなCDアルバムには、大抵の場合いくつかのキラーチューンが含まれています。一回の試聴でリスナーを引き付けられるような魅力を持った、そのアルバムを代表する曲です。シングルとして先に公開されたり、力の入ったMVが作成されたり、ドラ…