すだまの足跡

技術と社会を考えたい理系大学院生が残したいつかの足跡。

You make what you see

陸上の長距離を走る選手の日常は、ひたすら走り込みに費やされます。私も陸上部に所属していた中学や高校時代、そういった生活を送っていました。走ってばかりで何が楽しいのか、と怪訝な顔をされたりしますが、ところがどっこい、ただただ走り続ける中でも、如何にフォームを作って楽に走るのか、如何にペースを一定に保つのかなどなど、考えることは多いのです。そして、そういう風に練習している間は、実力がどんどん伸びていったものです。ところがそんな折、とある事情で陸上に身が入らなくなった時期がありました。すると、「いかに速くなるのか」ではなく、「いかに楽に練習メニューをこなすか」を考えて練習に取り組むことになります。やっている内容自体は以前と全く同じであるにも関わらず、その瞬間から面白いほどに結果がでなくなりました。

 

話は転じますが、低い教育水準に悩まされる発展途上国に対し、日本を含め多くの先進国が支援を行っています。国連が掲げる開発目標に、就学人数の増加などの教育環境の改善があり、多くの貧困国で学校の設立が進んでいます。しかし、ハーバード大学ケネディスクールのラント・プリチェットはこう言います。「学校建設における目標は多数あったものの、教育の中身に関する国際的な目標はなかった。はっきりさせておくが、学校を建てることと教育は同じではない」。国際的な学力評価において、低所得国の平均的な生徒の成績は、高所得国の生徒の下位から5%の水準にとどまっていると言われます。

 

さらに話を転じます。アメリカでは2010年に成立した再入院削減プログラム(Hospital Readmissions Reduction Program, HRRP)により、心不全、急性心筋梗塞、肺炎で入院した患者の30日再入院率が予想よりも高かった病院には、金銭ペナルティが課せれるようになっています。これにより、予後のケアが促進され、再入院率が減少することが期待されました。しかし複数の研究により、HRRP実施後に心不全と肺炎の退院後30日の死亡率が上昇した可能性があることが報告されています。一部の病院が再入院率を減らす目的で、あまり症状の重くない患者を再入院させずに、緊急治療室や経過観察床で治療するようになったのが一つの原因ではないかと推測されています(推測ですが)。

 

さて、これらの話から得られる教訓は一つ。すなわち、「物事への深い理解やコミットメントを無くして、表層的な達成を目指しているだけでは、望ましい結果は得られない」。これを回避するためには、結局のところ物事を深く考え続けるしか無いだろうと、そう思っています。